自分の気付きと振り返り(33)

日頃の仕事での気付きや、本やメディアなどの言葉で自分に引っかかった事を自分の言葉を追加して、備忘録的に書き留めます。
今回の言葉は【立ち位置の違いは「気持ちの段取り」と「方法論の段取り」の違いを生む】というものです。
対人援助の仕事をしていると、様々な「狭間」に自分が居る事になります。クライアントと家族の間になることはもちろん、組織とクライアント・家族の間、組織と組織の間など、登場人物が多くなるほどにその狭間も多くなります。
このような狭間になる前提は、方向性や考え方の異なる要素があるからです。対人援助職は、方向性や考え方の異なる状況から、「折り合い」を見つける仕事でもあります。この折り合いを付ける上で私が日々気を付けている事は、「気持ちの段取り」と「方法論の段取り」が違う、という事です。
例を挙げてみます。医療機関に入院しているクライアントとその家族が、退院するまでの期間を取り上げてみましょう。現在医療機関では、国の制度の都合上「より早く退院させていく」という事を主眼に置いています。これはインセンティブ上でも「早期退院」は評価されているからです。医療経済上は、「早期退院」は医療機関として満たさなければいけない数値の代表例です。必ず達成出来るように、入院した段階から「退院日」は言い渡されてしまいます。しかし、一般の患者家族にとって「退院」という行為は、「回復した段階」と同義です。そして、退院は「今までと同じ状態にまで回復した段階」と捉える事が当たり前の感覚になります。
それゆえ「医療機関が求める退院の段取り」と「患者家族が望む退院の段取り」は食い違うのです。これらの食い違いは、まだまだ一般の方々が、「医療」に「絶対」や「完全」を求める価値観が根強い所があるかもしれません。「医療の限界性」は、ある種一般的な考えにはなっていないのかもしれません。
とはいえ、一度「入院」という特殊な状況に身を置く状況となると、そのレールに乗り、医療を受ける側の人の段取りとは別に「医療機関側の段取り」に強制的に乗せられてしまします。その段取りが理解出来ないクライアントやその家族は、当然「もっとよくなってから退院させて欲しい」という意見が出ます。しかし、医療機関側は、家族が何故退院を拒むのか分からないのです。医療機関のスタッフは「早期退院が当たり前」の価値観に身を置くので、患者家族の「当たり前の価値観」を認識し辛くなってしまうのです。
医療機関の中で福祉の立場に身を置く医療ソーシャルワーカーとしては、これら価値観が違う両者の「立ち位置」が双方ともに理解出来ていない場面に良く遭遇します。それ故、それぞれの立ち位置を丁寧に説明する事から始めていきます。
立ち位置が双方ともに理解が出来て、初めてお互いに「気持ちの段取り」と「方法論の段取り」が違うという事実を認識できます。これらが認識できてくると、それぞれの折り合いの付け所を探していく場面に進める事が出来ます。
様々な場面で、立ち位置の違いから、それぞれ進めて行きたい段取りに違いが生まれます。双方の話が食い違う時は今一度立ち止まり、それぞれが置かれている「立ち位置」を確認し、「気持ちの段取り」と「方法論の段取り」に違いが生まれていないか再確認をしていきたいと改めて思います。