自分の気付きと振り返り(74)「関係性が作れたからこそクライアントを叱れる」

日頃の仕事での気付きや、本やメディアなどの言葉で自分に引っかかった事を自分の言葉を追加して、備忘録的に書き留めます。
今回の言葉は「関係性が作れたからこそクライアントを叱れる」というものです。
対人援助職の仕事をしていると、クライアントと感情の不和を抱えない様にする為の対応を色々と考えていくようになります。一方でクライアントの顔色ばかり伺い、デマンドを満たすのみを行い、真のニーズに触れる事なく単に「御用聞き」となってしまわないように注意は必要です。
以前、慢性期病棟で関わったケースで、お金の使い方について私はクライアントと意見の対立をした事がありました。その方は今まで刹那的にお金を使い、貯蓄も無く、身内と呼べる人も居ない状況で入院してきました。病状は緩やかに悪化していく状況でした。
本人の金銭管理を担っていた私は、これから入院継続で必要になるお金と、本人が自由に使えるお金との間を取って本人へ提案していました。最初は本人もその使い方で仕方が無いと納得していましたが、ある時「もっと自由にお金を使わないとイライラする」と話てきました。
無い袖は振れず、しかし本人の感じる閉塞感を少しでも和らげたいと思い、自由に出来るお金を増やす代わりに、買っている物のグレードを下げたり、頻度を変えたりする事を提案しました。しかし、本人は納得しませんでした。「もうすぐ亡くなるんだから、あれこれ考えず好きに使いたい」と話してきました。
私はクライアント自身がそう思っても当然とも感じました。しかし、病態的にもクライアントがこの先も生きていく事が有り得る状況において、本人の一時の衝動だけでお金を使う事を了承できない私が居ました。そのため、私は「あなたがこの先も生きて過ごす時間に必要なお金を、感情のまま使っていいとは言えないです」とはっきり伝えました。この時私は、クライアントを大切に思うからこそ「叱る」という行動に自然となった事を覚えています。
このやりとりをきっかけに、そのクライアントともっとコミュニケーションを取るようになりました。生い立ちや家族の歴史、仕事や趣味の話、生き方の話と様々な話題でやりとりをしました。やり取りが出来なくなる間際、そのクライアントから「あんたで良かった」と言われたことは今も残っています。
このようなケースを経験した事で、改めて私は「関係性が作れたからこそクライアントを叱れる」という状況が有り得ると振り返れました。ソーシャルワーカーとして、クライアントを本気で考えているからこそ、クライアントが自分で不利益となる選択肢を取って欲しくない事を本気で言えるのです。
支援者の本気の思いと言葉は、時に本人の思いとは真逆でも伝わる事があります。バイステックの7原則にある「意図的感情表出」「個別化」「統制された情緒的関与」が裏付けとなっていると振り返る事が出来ました。
仕事上慣れが出てくる経験年数だからこそ、改めて対人援助職としての自分に問いかけていきたいと思います。
「クライアントに本気になっていますか?」