自分の気付きと振り返り(29)

日頃の仕事での気付きや、本やメディアなどの言葉で自分に引っかかった事を自分の言葉を追加して、備忘録的に書き留めます。
今回の言葉は「くだらない話をしよう」というものです。これは、末期癌で療養中にお会いしたクライアントから、私が教わった言葉です。
日々病棟では、医療職種が患者とのやりとりをする際に、必ず「今の体調はどう?」「痛くない?」「苦しくない?」「熱は無い?」等の質問をして、それに本人が返答すると去っていきます。医療職種としては、体調変化を確認するべく、必要なバイタルサインや疼痛コントロールが上手くいっているか確認をする仕事であるので、その質問自体は仕方が無い事は私も分かっていました。
ある時私がそのクライアントと別件で話をしている時に、病棟スタッフが来て上記の質問を流れるようにして、本人が返答後すぐにスタッフは去っていく、という流れ作業を一緒に体験しました。私は、あまりにも同じことを聞かれ過ぎていてつまらないだろうと感じ、そのクライアントに「この質問、飽きましたよね」と話してみました。すると本人からは「仕方が無いよ、この人たちの仕事だし、忙しいから」「くだらない話でも出来ると気が楽なんだけどね」と苦笑いされました。それを聞いて私ははっとしました。
実は私も、何気なくクライアントとの話のとっかかりの1つに「体調はいかがですか?」と聞いている事が多くありました。これも、大なり小なり、入院という特殊状況にある患者であれば、必ず1日に何度も聞かされる「仕方が無い会話」でした。自分が良かれと思って体調を慮る言葉は、視点を変えると「飽き飽きする言葉」だったという事実に気付かされました。体調の事は、本人が一番分かっている事であり、一番心配な事。自分の終りを知るきっかけになる事であり、何度も何度もスタッフに確認されるたびに不安がよぎる事。こんな簡単なことが、私は気が付いていませんでした。
この気づきをくれたクライアントとは、その後私の気付きを共有し、「私と会う時はせめて、くだらない話をしませんか?」と誘ってみました。すると本人は笑って「それは良い」と二つ返事でした。それから私はこのクライアントと会う時に、体調の事は口にしないようにしました。趣味の事、お酒の事、昔のエピソード、今日のテレビの事など、他愛もない事を最後まで話をしていきました。
医療の現場に身を置いて仕事をしていく中で、あえて医療に係る話をしないでクライアントの気持ちに寄り添う形を作れたのも、医療の中の福祉職だからこその立ち位置だと感じています。だからこそ私は、このクライアントに教えてもらった「くだらない話をしよう」を、これからも出会う別なクライアントにも使い続けていきたいと思います。